「……うん、あんまり。そうじゃないかって薄々思ったことはあるけど、私の思い過ごしだと思ってたから」

 全然、といったらウソになる。でも、自分に限って……と考えないようにしていたというのが本当のところで。

『おいおい、アンタどんだけ自分に自信ないのよ。誰が見たって純也さんの態度は、好き好きオーラ出まくってたって』

「…………う~~」

『んで? 両想いになってどうした? もうキスとかしちゃってたり?』

「まだしてないよ! さやかちゃん、面白がってない?」

 〝まだ〟は余計だったかな……と思いつつ、愛美はさやかに噛みついた。……まあ、純也さんはいきなりがっついてくるような人じゃないと思うけれど。

『うん、ぶっちゃけ。だって面白いもん、アンタがうろたえてるとこ。――っていうか、純也さんは今一緒じゃないの? こんな話してて大丈夫?』

「大丈夫。純也さんには今、隣りのお部屋で私の小説読んでもらってるから。わたし今、自分の部屋で電話してるの」

『そっかぁ。じゃあ今ドキドキだね』

「うん……。彼からどれだけ辛口評価が下されるのか、もう心配で」

 最悪の場合、四作全滅の可能性もあるのだ。そしたらきっと立ち直れないだろう。

『まあ、そんなに心配しないでさ。胃に穴空くよ。……じゃあ、ぼちぼち切るわ。消灯迫ってるから』

 愛美はスマホ画面の隅っこに表示されている小さな時刻表示を見た。間もなく九時五十分になるところである。

「あー、もうそんな時間か。ありがとね、話聞いてくれて。じゃあ、また電話するよ。おやすみ」

『うん、おやすみ』

 ――電話を切ると、愛美は純也さんの部屋と接する壁を見つめた。

「純也さん、そろそろ読み終わった頃かな」

 もう一度彼の部屋を訪ねてみると、ちょうど彼は最後の原稿を机の上に置いたところだった。

「愛美ちゃん、ちょうどよかった。今、全部読み終わったところだよ」

「そうですか。……で、どうでした?」