突如、開かなかった小窓が動き、拳ほどの大きさがある球体が放り込まれた。

 コロコロと床を転がった球が何であるか。

 それを考えるより先に球から煙が一気に放出される。

「な、なに⁉」

 アーシェリアスの驚く声と、ザックがその正体の可能性に気付いたのは同時だ。

「まずい! 口元を覆え! エヴァン、窓を!」

「開きません!」

 すでに試みていたエヴァンが叫び、ドアを蹴破ろうとする。

 だが、その足は見る見るうちに力を失い床に着いてしまった。

「エヴァン!」

「すみま、せ……」

 煙が立ち込める車内に、尻すぼんでいく謝罪の声。

 エヴァンの隣に座っているノアは、すでに目を閉じてぐったりしていた。

「くそっ……アーシェ……」

「ザック……これは……」

 その会話を最後に、ふたりの意識も途切れた。