「それで、そのミア殿は?」

 エヴァンがミアの名を出した矢先、噂をすればなんとやら。

「お待たせ、アーシェ!」

 どこかウキウキした様子のミアが戻ってきた。

「あの馬車に乗ってくれる?」

 ミアが可愛らしく手のひらを上向けて指し示した先には、窓のついた高級な箱馬車。

 赤茶色に塗装されており、ひと目で貴族向けのものだとわかる。

 いつものホロ馬車とは違い、きっと乗り心地はいいだろう。

(だけど! 乗ったらミアと過ごす時間が増えてしまう! アルバートも交えてお祝いするんだろうし……破滅フラグが待ち受けているとしか思えない……!)

 回避の為にはどうすべきか。

 今すぐザックに相談するのが賢明だろうと、アーシェリアスが不安気な瞳でザックを見つめた。

 ザックは意図を汲み取ったと言うように頷く。

「わかった。俺も一緒に乗ろう」

(違うーっ! 乗らない方向を希望してますー!)

 心の中で突っ込んでいる間にも、ザックはアーシェの手を引いて馬車へと向かう。

 すると、ミアの大きな目が驚きに染まった。

「え、あの、先にアーシェと私だけで馬車に」

「なぜだ? 同じ場所に向かうなら問題ないだろう。何より、俺はアーシェの護衛だ。離れるつもりはない」

「俺はアイザック様の護衛だ! 故に同乗させてもらうぞ」

「僕もアーシェと一緒がいい~」