前世、莉亜の母が営む小料理屋に親子で訪れた客がいた。

 子供はまだ五歳くらいだったか。

 節分を控えた寒い時期で、店では恵方巻をメニューに入れていたのだが、その子供が可愛い恵方巻がいいと言ったのだ。

 その時、莉亜の母が即席でオムライス太巻きを作った。

 中央の具はいんげんや人参、鶏むね肉だったと記憶しているが、子供は可愛いと大喜びで食べていた。

 ファーレンではオムライスはないのでそれ単体でも珍しいのだが、斬新さをさらに加えるなら丁度いいとアーシェリアスは考えて、ノアに作り方を教えた。

 結果、審査員たちは何だこれはとワクワクしながら試食。

 味付けも良かったようで、トマトソースと米の相性の良さを褒めていた。

(うん、いい感じ! エヴァンさんは無理そうだけど、私とザックとノアの誰かが優勝できればいいわけだし、望みはあるかも)

 幻の料理に関するかは不明だが、賞品はゲットしたい。

 祈るように両手を合わせたアーシェリアス。


「さあ、次の料理はザクリーンさんの『おやき』です!」

 これはもう、完璧にザックの拘りだった。

 どうせなら自分の好物を作ってテンションを上げたいと。

 無理に女装させている手前、他の料理を提案することは憚られたアーシェリアスは、おやきもファーレンにおいては斬新だろうと思い、二種類のおやきの作り方を伝授した。

「おやきとは……?」

「パン……ゴホン。パンの中に調理した具材を入れて焼いたものですのぉ」

(めっちゃ女声にしてる!)

 ちゃんと女性になり切ろうとしているザックの心意気に、アーシェリアスは驚愕しつつも深く感謝する。

 ただ、クールな外見と喋り方が合っていないのが気になるが。