しかし、惚れた弱みというのは恐ろしいもので、優雅に翻弄される日々を愛しく感じてしまう自分がいる。意地悪な微笑みに、きゅんと胸がときめいてしまう。
ああ、まさか三十歳にして毎日初恋な気分を味わえるとは思わなかった。すごく恥ずかしい!

「ともかく、これ以上は怒りますよ」

自分を律するためにも、厳しく言うと、優雅が腰を折るように顔を近づけ、耳元でささやいた。

「ここ数日、忙しくてあなたと肌を合わせていないので。僕も寂しいんです」
「優雅!」
「許してください。あなたに夢中なもので。ああ、はやく、あなたをベッドの中でひとり占めしたい」

私を困らせている優雅はとても楽しそうだ。私はきつく睨んで、恋人から距離を取った。

「わかりました。コーヒーを買いにいきましょう。でも、変なことは禁止よ!」
「キスは変なことに入りませんね」

私はむうと眉間にしわを寄せる。本当にこの男ときたら。
たぶん、初仕事の仕上げにピリピリしている私をリラックスさせたいんだろうなとは思う。でも、やり方がずるいのよ。
優雅が意地悪な微笑みのまま、私を見つめた。

「愛菜さんの初仕事が片付くまで、もう少し我慢をしますから、ご褒美ははずんでもらえますね?」
「さあ、どうでしょう。あなたの頑張り次第よ」

私は愛しい恋人に向かって、不敵に笑った。



(おしまい)