将来的にどちらがKODO開発の社長を継ぐかはこれから話し合うことにした。
優雅曰く、自分は一歩引いた立場の方が仕事しやすいとのこと。榮西の仕事も、裏方だからこそ今まで手伝ってこられたという。

私がトップを張った方がいいなら、そうするつもりだけど、それらもまだ急いで決めない。大事なことは優雅が私と一緒にいることだもの。



「愛菜さん、キッチンが終わったら、少し休憩にしましょう」

真新しい廊下とふかふかのカーペット敷きの床をずんずん進む私に、優雅が声をかけてくる。

「そうね。あまり時間は取れないけど、お昼食べましょうか。ホールにお弁当を発注してあるわ」
「僕の車で、コーヒーでも買いに外へ出ましょう。気分転換になりますよ」
「時間がないと言っているでしょう」

すると、優雅が私の肩を掴み、ぐいっと引いた。
そのままの勢いで唇にキスを落とされる。ちゅーっと存外長くくっつけてくるので、一瞬驚いて呆けた私は、慌てて優雅の身体を押し返した。

「優雅! 仕事中ですよ!」

頬が熱い。誰も通りかからなかったのが幸いだけど、悪ふざけが過ぎる。
ぷりぷり怒る私に優雅は意地悪く口の端を引いて見せた。

「失礼。愛菜さんが可愛らしくて、つい」

こんな意地悪な顔、絶対私以外には見せないのよね。

付き合ってみてわかる。ふたりきりの優雅はいつもとびきり意地悪だ。私を困らせるのもからかうのも、ベッドの中で追い詰めるのも自分の特権だとばかりに、傲慢で強引に振舞ってくる。基本が紳士的だから、私もギャップに翻弄されまくっているわけで。

そもそも、片鱗は見えていたのだ。でも、ここまで裏表のある男だと思わなかった。
そこがきっと私が本能的に優雅を避けていた理由だと思う。