「全然、手っ取り早くないわよ。私が仕事を辞めずに、前職にしがみついていたらどうなっていたか」
「愛菜さんはご存じないでしょうが、あなたが前職を辞める辞めないに関わらず、僕とあなたは結婚内定状態でした。実を言うと、亡き父、兄、そして古道社長を交えて、数年前に決定済のことなんです」

にっこり笑って優雅がとんでもないことを言いだした。

「僕と社長は考えました。しがらみさえなければ、あなたは僕との結婚を受け入れるだろうと。だから、いい条件を出してあなたに自由を許しながら入籍するつもりでした。当初の条件提示は、『都内で仕事を続けてもいい』『週末婚でも可』」

恐ろしいところを突いてくる。
確かに、前職を続けていたとしたら、私はその条件を飲んだかもしれない。
実家に帰らなくてもいい、仕事は続けられる。さらに結婚して親を安心させられ、社会的に人妻の肩書もゲット。……私にとって都合が良すぎる。

「ですが、あなたが仕事を辞め、戻ってくると決まったので、少々事態が変わりました。僕はKODO開発の後継者として内定していたんですが、そういうことならとあなたを社長にと推しました。古道社長は榮西の手前、僕を社長に推しまして。それが僕らの正式な婚約が遅れた理由です」

とんでもない事実がざらざら出てきたんですけど。待って。私の拒否する余地なんて最初からなかったじゃない。外堀パンパンに埋められてましたけど。
さらに、婚約が遅れてた理由も、どっちを社長に立てるかっていう……。最初から、私の意見を挟めない構造なんですけど。