「おそらく、古道社長から簡単に事情を聞いていたんでしょうね。僕は三つも下の女の子に励まされて、その場でまた泣いてしまいました。あなたは慌てて、一生懸命僕を励ます言葉をくれました。『泣かないで。またこうしてお喋りしましょう』と。残念ながらその機会はありませんでした。父が回復し、退院してきたので」
「もしかして……優雅、それから私のことを……?」
ちょっと引いた顔で苦笑いすると、優雅もおかしそうに笑う。
「さすがに初恋を追いかけて、というわけではありません。父と兄と相談し、KODO開発に入社したときも、数年勉強をさせてもらい、いずれは榮西に戻るつもりでした。ですが、大学生のあなたをひと目見た時に、あの時の感情が蘇ってきました。僕の中で、忘れ得ぬ思い出だったんです」
「ちょっと……それ、結局意味が同じよ……」
「はい、そうなりますね」
優雅は丸々十年、いや子どもの頃から私のことを想っていたということになる。
私は真っ赤になったまま、どんな顔をしていいかわからない。執念深いとか、引いたとか、否定的な言葉を投げてやりたいのに、一番に浮かんだ言葉が『嬉しい』なんだから、私も重症だ。
「僕のことを覚えていないあなたは、僕には挨拶程度しかしてくれません。どうしたら、あなたと近づけるかを考えました。手っ取り早いのが、古道社長に認められあなたの夫に選んでいただくことだと思いまして」