「しかし、僕が一番ありがたかったのは、古道社長が僕らといてくれたことです。夕食を作ってくれ、僕らとたくさんお喋りをしてくれました。病床の父のこと、亡くなった母のこと。僕はまだ十一歳で、心細くて泣いてばかりでしたが、社長は根気強く僕を励ましてくれました」
「思いだした……。私が小学校低学年の頃、父が長期出張だとかでひと月以上戻らないことがあったわ」
「その時です。そして、僕はそのとき、愛菜さんと会っています」
「え?」

思わぬことに私は首を巡らせ、優雅の顔を見る。優雅が愛おしそうにふふと笑う。

「当時パソコンを使ってビデオチャットができたんですが、古道社長が愛菜さんと何度か話していました。愛菜さんはいつも『パパいつ帰ってくるの?』と怒っていまして」

そういえば、出張中の父と話したことはあったけれど、詳細は覚えていない。そんな頃の私を知られているのかと思うと、無性に恥ずかしくなった。

「一度だけ、社長がチャット中に席を外したんです。覗いていた僕を愛菜さんが見つけて。『ねえ、あなたが私のパパと取った人ね』って言うんです」
「私、そんなこと言ったの? とんでもない子どもね」
「僕の目には天使のようの愛らしく映りましたよ。液晶の中で、ぷんぷん怒っているあなたは。そうしてあなたは言いました。『もう少しだけパパのこと貸してあげるわ。元気を出さなきゃ駄目よ』って」

私はぶわっと顔が熱くなった。全然思いだせないけど、なんて生意気な子どもだったのかしら、私って。