『きみがつらいとわかっていたのに。俺はずっと、出会ったときからきみが好きだから!』

いや、きみ、私にめちゃくちゃアプローチしてたじゃん。この数ヶ月って私の妄想? 幻覚?
いつしか、周囲から拍手がぱらぱらと起こっていた。
抱き合うヒロインとヒーロー。祝福するモブ。事実無根の巻き込まれヒール・私。

これは、あれね、悪役令嬢の断罪イベントってやつ。
ゲームの世界や、最近のライトノベルとか漫画とかでよくある設定らしいじゃない。ヒロインを苛め抜いた悪役令嬢が最後の最後で断罪されるという……。

いじめてねえっつうの!




この出来事は瞬く間に社内を駆け巡った。
三角関係のもつれ。若手の可愛い社員に男を取られそうになり、しつこくいじめていたのはあの古道愛菜。
最低最悪に不名誉な噂だった。

上司である販促グループのリーダーには個別で事情説明をした。栗原さんの出来の悪さと仕事態度については、グループリーダーもよく理解していたので、私の説明は全面的に受け入れられた。上にも『こっちで説明するからいいよ』と、私に咎が無いことを保証してくれた。

しかし、騒ぎもあったし、栗原さんの指導係からは外れることとなった。この点は清々したものの、同時に私の悪い噂は勢いを増した。
元々の仕事姿勢を『偉そう』『傲慢』と言われ、『嫌いだった』と言いたてられる。『顔が良いことを自慢してる』と女子社員には悪口をたたかれ『三十過ぎて、若い男に必死過ぎ』と笑われる。
挙句は『ここまで枕営業でもして成り上がったんじゃないの?』とまで。