「失敗だわ」

深夜、寝室の天井を眺めて私は呟いた。優雅の広いベッドに仰向けになり、シーツ一枚を素肌に巻き付けた状態だ。
いや、さらにその上から優雅の腕が私に巻きついている。がっちり抱き締められ、逃げられない。

「何が失敗なんです?」

やはり起きていたようで、優雅が私の胸元でささやく。私の位置からでは優雅のつむじしか見えない。髪にキスをして答える。

「優雅を手酷く振って榮西グループに戻す作戦」
「ふふ、浅はかですねえ、愛菜さん」

優雅がからかうような口調で笑った。

「榮西は確かに今、屋台骨を揺るがしかねない事件が起こっています。亡き父を支持し、兄に反感を持つ専務を中心としたグループがクーデターを起こそうとしています。正直、兄も企業を大きくするためにきな臭いことも少々手を出していますからね。つつかれると危ない」
「それって……優雅がいなくて大丈夫なの?」

というか、優雅がいてもどうなるか。ともかく一大事じゃない。
優雅は面白そうに笑っている。

「兄には僕より何倍も頼りになる部下が大勢いますよ。それに、兄は僕や部下たちの何百倍もバイタリティとパワーのある男ですから。一種の天才です。まあ、僕は事が収まったら少々後片付けに動く予定ですが」

後片付け? ええ? 何を? どうするの? さらっと怖いことを聞いた気がする。
優雅はおそらく、KODO開発に入社して以降も榮西の中枢にあり、お兄さんのサポートを続けてきたのだろう。