「乾杯」
「愛菜さん、今日はご機嫌がよろしいんですね」

優雅がかすかに笑う。

「合鍵を受け取ってもらえる日が近そうで嬉しいです」
「そのことだけど、先に言っておきますね」

ひと口、ワインを含んで、ゆったりと飲み干してから、私は優雅に顔を向けた。

「あなたを本件のチームから外すことにします。父には明日了承を得るわ」

優雅の表情がすっと消えた。それから、ワイングラスをテーブルに置く。

「……もう、僕は必要ないからチームから外すということですか?」
「ええ。ここまで利用させてもらいました。右も左もわからない私に、丁寧にご教授ありがとう。あなたは私に好意があるから、思い通りに動いてくれて助かったわ」

目を細め、嘲笑の表情を作って優雅を見つめる。すると、優雅の形の良い唇がうっすら開くのが見えた。

「開業まであと少しという今のタイミングなのはどうしてですか?」
「もう、私ひとりで問題ないと判断したからです。同じチームにいる必要はない」
「最後まで見届けたいと思うのは我儘でしょうか」
「そうは言わないけれど、私個人はあなたの勘違いした愛情表現が鬱陶しいの」

なるべく素っ気なく悪辣な口調で言う。
嫌な気持ちにさせよう。私は悪役。本当に笑ってしまうほど、悪役が良く似合う。