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その日の夜、私は優雅の部屋を訪ねる約束をした。
一度家に戻り、メイクを直し、お気に入りのサマーワンピースを着る。緩くウェーブのかかった髪はあらためてヘアアイロンでまき直し、胸元に垂らした。
父のバーカウンターから、美味しそうなワインをひとつ拝借し、ケースに入れる。
ストラップ付きの華奢なパンプスを履いて、タクシーで優雅の部屋に向かった。
めかし込んで出かける私を、母はデートだと思っていただろう。
デートなのは間違いない。
私は優雅の部屋の前で深呼吸をする。
「愛菜さんから僕の部屋に行きたいと言ってくださるのは初めてですね」
私を出迎えた優雅は微笑み、私が持ってきたワインを受け取った。
「そうかもしれないわね」
勝手知ったるといった顔で、リビングに足を踏み入れる。何度この部屋を訪れただろう。私は革張りのソファにどさりと腰かけ、脚を組んだ。
「食事は」
「とりあえず、ワインを飲みましょう」
私の態度の違和感に優雅は気付いているだろう。それでも、私は平然と優雅から預かったグラスをテーブルに置く。
「たぶん、美味しいと思うわ。ちょっといい物だから。父の棚から拝借したんだけど」
「社長に叱られますよ」
「今度返します」
グラスに注がれたこっくりと重たい赤。眺めてからグラスを掲げた。