「KODOにはきみが必要だ。愛菜と夫婦になって、歩んで行ってくれたらどれほどいいかと、私も思っている。しかし、それで榮西が経営の危機に陥ったら、一昨年に亡くなった雅浩さんに申し訳ないんだ。雅浩さんにきみたちを守ると約束したんだから」
「古道社長は、僕たちをずっと守ってくださっていますよ。僕も、週末は兄の手伝いをしてきましたが、ここふた月ほどは今回のリゾートホテルの案件で、榮西に顔を出せない状況でした。ホテルは竣工、開業間近です。ここを乗り切れば、また兄に力を貸すことはできます。……といっても、僕が兄にできることはたいしてないんです。榮西には多くの優秀な部下たちがいます。父の代から支えてくれている。彼らがいれば、どんな波も乗り越えられます」

優雅は真摯に答えている。しかし、父が厳然と言う。

「優雅くん、今週末うちに来るという予定は一度取りやめよう。私も行くから、一度風雅くんを交えて、今後のことを話そう」
「社長、僕はここに」
「榮西に入れば、きみにはグループトップに準ずる役職が与えられる。地方企業の婿養子とは比べられない立場ができる。やはり、きみは榮西に、お兄さんのもとへ戻るべきだ」

私は息を詰めて、ドアから離れた。足音を立てないように、社長室の前から離れる。
心臓が不穏にどくんどくんと鳴り響いている。

優雅は榮西の人間だ。
それはもうずっとわかっていた。本来は私の部下になどなり得ない男。婚約者すら、身分違いといってもいいレベル。

父の言うことは正しい。優雅はお兄さんのところへ戻るべきなのだろう。
私なんかに執着している場合じゃないじゃない……。

「私に何ができる……?」

私はひとり消え入りそうな声で呟いた。