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二日後の朝、私は朝食の席で父を捕まえた。
父とは出勤の時間が違う。私より早く出ることもあれば、遅いこともある。
だから朝食の席に顔を合わせるのは今週初だった。
「と、いうことで、土曜は優雅が来るからね」
私が説明すると、お茶を手にした母がわくわくと尋ねてくる。
「お肉を焼こうかしら。すきやきなんかお好き?」
「もう、初夏よ」
「すきやきは一年中美味しいわよ」
私と母のやりとりをほほえましく見つめている父。私は向き直って言う。
「あのね、お父さん。私、優雅との婚約や結婚、考えてもいいわよ」
母が「まあ」と歓喜の声をあげ、途端に照れくさくなった。でも、きちんと言っておいたほうがいいものね。
「どちらが社長になるとか、そういうのはこだわらない。お父さんの考えもあると思うし。でもKODO開発のためには、優雅の力は必要だと思うわ」
あくまで会社の未来のため、優秀な人材を身内に引き入れておくという意味で。私が好きだからというふうには聞こえないように。
「そうか」
父は笑顔で答えた。
「じゃあ、前向きに考えていかないとな」
あれ? 私は拍子抜けして父の顔色を窺う。
父の返事に違和感を覚えた。もっと喜ぶかと思っていたのに。
父のことだ。私の気持ちが固まれば、すぐにでも結納だ結婚の日取りだと言いだすものかと思っていた。それなのに、なんだか静かじゃない?
なんとも妙な心地で、母から受け取ったお茶を飲んだ。