答える前に、涙の粒を舌で舐めとられた。びっくりして身を硬くするけれど、優雅は容赦なく、唇と舌で私の頬を撫でる。それから頬を両側から包み唇にやわいキスをくれた。

「可愛い人だ」

唇をわずかに話してささやかれると、その低い声に身体が震えた。胸が苦しいくらい心臓が鳴り響いている。

「甘やかしてさしあげますよ。あなたが望む限り、心ゆくまで」
「馬鹿じゃないの? そんなの望んでないわ」

強がりながら、鼓動はどくどくと激しく、隠せないほどだ。きっと私は赤い顔をしているに違いない。
優雅がふっと微笑んだ。

「何を望んでくれてもいい。すべて叶えます。愛していますから」

強引に抱き寄せられ、私は優雅の腕の中にすっぽりと納まった。温かい。優雅の香りがする。

「意味がわからないわ、優雅」

考えるのはやめた。私は背中に腕をまわして、ぎゅっと抱き締め返す。
その反応に優雅がわずかにぴくりと肩を震わせた。意外だったようだ。

「これは合意と取っても……」
「勘違いしないで。一線を越えるのは正式に婚約してからです」
「正式に……」

その言葉は、たぶん優雅にとって待ち望んでいたものだろう。婚約してからなら何してもいいってことは、婚約OKの意味だもの。

「わかった? これ以上は駄目よ!」
「はい、愛菜さん」

そう言って、私の肩口に顔を埋めた優雅の声は、今まで聞いたどんな声より嬉しそうで幸せそうだった。
私たちは、しばらくそうして抱き合い、お互いの心臓の音を聞いていた。とても安らかな時間だった。