小林くんは私の顔を見て、目を丸くした。口が開く。

「古道さん!」

そこで黙っている思慮深さが彼になかったのが残念だ。

「ご無沙汰しています。こんなところでお会いできるなんて!」

私はあーあと心の中で呟き、曖昧に微笑む。隣で優雅が笑顔のまま静かに固まっているのを感じた。

「古道さんは、本社の先輩だったんです。俺、ずっとお世話になってました。KODO開発の社長のご令嬢だったなんて!」

小林くんは年上の同僚に、私のことを興奮気味に説明している。
私はあくまで大人の対応をと、にっこり微笑み答えた。

「小林さん、お久しぶりです。まずは、ご挨拶をさせてください」

きみの同僚だったのは過去のこと。もう関係ないわよ、という線引きをしておかないといけない。
それにしても、彼は本社からグループ企業に出向したようだ。あきらかに出世コースから逸脱している。私が退職してからこの二ヶ月ちょっとで何かあったのかしら。

挨拶をし、そこから打ち合わせは通常通りに行われた。学生同士じゃない。久し振りの先輩後輩が出会ったからといって、仕事は仕事だ。その先輩後輩の間に、過去様々なことがあったとしても。
彼らの本拠地は埼玉県北部、今回は三泊の宿泊日程で打ち合わせに来ている。つまり、三・四日やりすごせばいいのだ。
小林くんの顔なんか見たくないし、苛立ちが湧いてくるけれど、仕事で関わる以上無視もしきれない。となれば、我慢して大人の対応で通すしかない。
現地を見に行き、S市の観光課も交えて打ち合わせをする。大筋はこの数日ですべて決めてしまいたい。