翌日の午後、私は昼食もそこそこに急ぎのメール返信だけ済ませていた。

「古道リーダー、先方がお見えです」
「わかりました」

担当に呼ばれ、私は席を立った。五十嵐部長と話し終えた優雅とアイコンタクトする。優雅も同席予定だ。
今日は広告代理店と打ち合わせである。開業に向け、広告宣伝を一任する会社とだ。
本件はホテル建設と観光の活性化がセットになっている企画なので、代理店はS市の観光課が選定した。
ちょっと嫌なのが、その代理店が私の前職のグループ企業であるってこと。巨大な企業だったし、知り合いに会うことはないだろうけれど、気持ち的にあまり楽しくはない。色々あって辞めた会社だもの。

「愛菜さん」

優雅が私にしか聞こえない声で話しかけてくる。周囲に聞こえなければ名前を呼んでもいいと思ってるわね。この男。

「大丈夫よ」

たぶん、私の前職を知ったうえで気遣っている。本当に私のことをどこまで調べあげてるんだろう。本当に大丈夫。こんなことをいちいち気にしていられない。

初の顔合わせなので、会議室ではなく、応接室に通している。入室するとあちらの担当が三人、ざっと音をたてて立ち上がった。

息が止まりそうになった。
誰よ、知り合いと会うことはないだろうなんて言ったの。
そこにいた担当のひとりは、あの小林ヒカルだ。