「左門優雅は、相棒としては最高だけど、男性としては見てない」

そう言ってみて、少しだけ嘘だったなと感じる。意識してない人間とのキスをあんなに何度も思いだしたりしないもの。

「そうなの? でも、婚約破棄にはなっていないんでしょう?」
「正式な婚約に至ってないから、破棄も何もないのよ」
「じゃあ、愛菜が他に好きな人ができたら、断りやすくなるわね」

真由乃がなかなか鋭いことを言う。そうなのだ。私が、きちんと断る理由を持てば、この婚約関係は解消できるだろう。

「出会いがない……」
「ホテル建設で、いろんなところと打ち合わせしてるんでしょう? そのあたりで出会いがあるんじゃないの?」
「うーん」

左門優雅が意味不明&理解不能である以上、外で恋人を作るのは建設的なことに思えてきた。
いや、でも過去いざこざのあった後輩の名前をうっかり呼んじゃっただけで、あの嫉妬だ。
恋人探しなんてしようものなら、私も相手になるだろう男性も何をされるかわかったものじゃない。

だいたいおかしい。優雅は大企業榮西グループの御曹司なのだ。KODO開発に居残る原因が私だなんて……。
出会ってから十年は経つけれど、そんなに目立った接触はなかったし、話したこと自体数えるほどだったはず。どこをどうしたら、私に好意が湧くの?
そう考えると、優雅にはやはりまだ裏がある気がしてしまう。

やっぱりキスされたくらいで意識しちゃ駄目。慎重に見定めていかないと。