「真由乃に余計なことを言わないでくださいね」
「余計なことなんて、言うはずないじゃありませんか」

いや、絶対に言うでしょ。最初からからかいモードだし『面白そう』って表情してるじゃない。
苛立つ私とにこにこ笑顔の優雅が一階のエントランスに降り立つ。すぐに真由乃が気づいて歩み寄ってきた。

「澤村さん、お待たせしました」
「左門さん、ありがとうございます。愛菜をお借りします」

貸し借りじゃない。優雅が調子に乗って、私に言う。

「愛菜さん、ゆっくりで構いませんからね。先に休んでいたらすみません」
「ちょっ！　同棲してるみたいな言い方しないで！」

その言い方は完全に同じ家住んでいるアピールじゃないのよ！　事実無根！
真由乃がにやにやしている。

「あらあ、左門さん、すみません。あまり遅くならないようにお返ししますので」
「いえ、どうぞごゆっくり。愛菜さんは案外友人が少ないんです。澤村さんのような方は、大変ありがたく思っております」
「案外っていうか、この性格だと納得ですよね。ホント、愛菜って友達少なくて」
「わかります。そんなところも可愛いんですが」

ふたりのふざけた会話に私はうぐぐと呻き、怒った。

「優雅っ、これ以上は怒るわよ！　真由乃、行こう」

優雅に見送られ、私は真由乃を引っ張ってエントランスを出た。