春が深まってきた四月、出張の翌週も私は忙しく働いていた。
ホテルの建設工事は順調。一方で、開業に向けて内装や取引業者の選定、広報活動など、すべきことが山積みである。
幸い、私の周囲を固めるチームメンバーは皆頼りになる。任せられるところはどんどん任せ、私は統括として仕事を回すことに尽力している。

特に優雅は、私の気の付かない部分までフォローをしてくれるので、とても助かる。優秀な相棒だ。
先日の出張でもだいぶ世話になったし、無理なアプローチをしてくる男でもない。このまま良好な関係でいたいものだ。

ブルーライトカットと、軽度の乱視矯正のためのメガネをはずし、私は目頭を指で押した。現在時刻二十二時。オフィスには私ひとりきり。
夕方からノンストップで仕事をし続け、さすがに疲れてきた。あと少しで切りあげて帰ろう。
そういえば、前の会社でもこんな瞬間があったなと思いだす。オフィスにひとり残って仕事をしたっけ。前職は深夜まで残る人間も割といたので、完全にひとりきりになることは少なかったけれど。よし、あと少し……。

次に私が意識を取り戻したのは背中に温かな感触を覚えてだった。
うわ、デスクで眠ってしまったみたい。そして、背中に当たるのはブランケット? 前もこんなことがあったような……。

私は寝ぼけていた。意識が混濁していたのだ。
時間の軸が一瞬わからなくなり、自分がいる場所すら間違えるほどに。