すると、三田河が腕を伸ばし、私の手首をがしっと掴んだ。酔いも手伝って、一瞬反応が遅れ逃げそびれてしまった。

「ちょ……放してください」
「まあまあ、ほら行こう。ね、別嬪さん」

腰を抱かれ、ぞわぞわに吐き気がプラスされた。気持ち悪いっ!それなのに、酔いのせいで力は入りづらい。

「愛菜さん」

その声は真後ろから聞こえた。
次の瞬間、私の身体は後方に引っ張られ、優雅の腕の中にいた。

三田河が振り向き、何事か言おうと口を開きかける。しかし、その唇がきゅっと結ばれるのが見えた。表情が固まっている。
おそらく、私を後ろから抱きかかえる優雅の顔を見て、こんな様子になっているのだ。

「三田河社長、お電話が入っていたようです。キシダ建設の岸田社長から」

優雅が低い声で告げる。

「部下の方がご対応されていましたが、お急ぎのようでしたよ」

私は顔をあげ、優雅の顔を見てぎょっとした。優雅は見たこともないような表情をしていた。
それはただの真顔なのだ。しかし、醸し出す雰囲気が恐ろしいまでに鋭利だ。空気だけで相手を殺してしまえそうなほどの迫力がある。

「それと、あまりお戯れが過ぎると、こちらも少々困ります。施工業者の選定のし直しでは、開業時期が大幅にずれてしまう。キシダ建設だけではその損害は賠償できませんね」

優雅は明確に脅している。おまえのところを切るぞ、と。
私の肩を抱き寄せる手に力が入っている。

「いや、私は……。電話をしてこないとなあ……」

三田河はすっかり縮み上がっていた。ぼそぼそと呟いて、慌てて座敷に戻っていく。
私はふうとひと息ついた。

「座敷に戻って、場を締めましょう」
「愛菜さん」
「大丈夫。……その後、少し手を借りるかもしれません」

優雅は納得したように私を解放してくれた。