父がなおも言う。

「きみは榮西グループの御曹司、現社長の弟。本来はうちのような地方の一企業のトップすらもったいない。お兄さんの下で補佐をし、支えていくべき人物なんだ」

驚くべき単語が聞こえた。
エイサイ？　それは、あの榮西グループのことなの？

私は凍り付いた。
榮西グループは、業態はサービス業に分類される巨大企業だ。

不動産売買からスタートし、経営人材マネジメント分野に進出し、業務を拡大。近年は福祉サービスや、アミューズ分野など経営をさらに多角化させ、ありとあらゆる場所で『ＥＩＳＡＩ』のロゴを見る。
前職でも、コンペなどで何度か関わったことがある。数人は名刺を持っていたはず。

そのトップの弟？
それが左門優雅！？

「愛菜は私が説得するから、どうかきみが社長を継いでくれないか？　将来的に、ＫＯＤＯ開発は榮西の傘下に入っていいとも思っている。悪い利益ではないはずだ」

ＫＯＤＯ開発がいくらこの地方では随一の企業でも、榮西グループとでは経営資本の桁が違う。この話が正しいなら、優雅は私の部下でいていい人間じゃない。正真正銘の御曹司であり、大グループの中枢を担う人物だ。

……うちの会社のトップなんて、狙う理由がないくらいの。

「僕がここにいるのは、榮西に手土産を作って戻るためではありません」

優雅が静かに答えた。

「幼かった僕たちを救ってくれた古道社長を支える。そのために僕はこの先もＫＯＤＯ開発におります。愛菜さんのこともお任せください」

お任せって、勝手なこと言わないでよ……と思いつつ、びっくりしすぎて頭が回らない。