「いや、甘やかしてしまった娘で。優雅くんには迷惑をかけるね」
「いいえ、愛菜さんは勤勉な努力家です。入社してまだ二週間ほどですが、任命された役をこなすために、並大抵ではない勉強をされています」

おお、素直に褒めてるじゃない。いや、父親の前で娘を貶さないか。

「先見の明、観察眼、人心掌握の力は社長譲りですね」

あ、なるほど。最後はうちの父を褒めるところに持っていくのね。うん、うまいわ。

というか、この前食事をしたときに言っていたけど、優雅はうちの父を恩人と言っていた。真由乃も話題にしていたけれど、父に対する忠誠は本物みたいに見える。腹の見えない優雅の、その部分だけには嘘はなさそう。

「でも、私はやはりきみのお父さんの雅浩さんとお兄さんの風雅くんに申し訳ないよ。きみが望むなら、いつだって榮西に戻ってくれて構わない。きみに相応しいポストはいくらでもあるだろう」

エイサイ……てなに?
どんな字を書くの? エイサイに戻るってなに?

単語だけでは話がわからず、耳をぐりぐり押し付けて聞いていると、優雅が答える声がする。

「古道社長への恩返しが、亡き父と現在の榮西のトップである兄の望みです。そして、僕の望みでもあります」
「それならば、やはりきみを後継者に指名しようと思う」

その話に私は面食らう。結局、父は私じゃなくて、優雅を後継者にしたいんじゃない!
いや、それならそれでいいけれど、やっぱり私は不要じゃないの!