「でも、帰ってきてくださいましたね」
「そういうタイミングがきただけです」

言葉を濁して答えると、優雅が言う。

「僕はこの土地に十年いますが、良い土地だと感じています。気候は少々厳しいですが、食べ物は美味しく、空が綺麗です」
「……あなた、生まれは関東?」

ふと、気になっていたことを質問すると、優雅がわずかに黙った。

「僕、話しましたか?」
「いえ、そうなのかなと感じただけ。訛りがまったくないもの。このあたりの訛りはイントネーションは変わらないけど、アクセントや言い回しに少しクセがあるでしょう。敬語で取り繕っても多少は出る。でも、あなたは全然ないわ」

優雅が「よく見てますねえ」と呟いた。

「おっしゃる通り、生まれは都内です。大学まで東京の実家暮らしでした」

年齢的にもそうだとは思っていたけれど、やはり大学卒業と同時に、KODO開発に入社したということだ。父が業界経験者をヘッドハンティングしてきたわけではない。
あれ、そういえば、父が優雅のお父さんと知り合いだったと言っていたような。

「なぜ、こんな地方企業に来たんですか?」
「古道隆一郎社長に御恩があるからです」

やはり父の関連らしい。

「僕と兄はとても大変な時期に古道社長に助けられました。兄は家業を継ぐために都内に残りましたが、僕はご恩返しのためにKODO開発に入社しました」