「お見事でした」

ブラックコーヒーの缶を開け、優雅が言う。

「褒められるようなことしてないわ。精一杯のはったりです」

私は温かなミルクティーの缶を開け、ふんと息をついた。

「私がしたのは、過去の似たケースの事業計画を見て、本件の業務チャートを作っただけ。あとは昨日のミーティングであなたが話していた内容を『理解した』。それだけよ。それと、帰宅してから各担当の名前と顔を一致させました」
「簡単に言いますが、常人が一日でできることではなく、類いまれなる努力を要することです。素晴らしい」

優雅が私を見つめ、心から称賛しているというように拍手をして見せる。

「ズブの素人が一日でそれっぽく見せるには、と考えた結果よ。はったりだと言っているでしょう。あくまで今日対応できる程度しか知識はありません」

突然やってきた社長のひとり娘として御神輿に担がれているだけでは我慢ならない。
私がトップならトップとして相応しくならなければならず、そのためにはいくつかすべきことがある。
知識を一日ですべて補完するのは無理だ。それならば、少なくとも『こいつが上だ』とメンバーに理解させなければならない。

今のミーティングは、付け焼刃の知識を振りかざすことがないように、あくまで『理解はする準備はあるから、報告しなさい』というスタンスを取った。各担当の顔と名前を完璧に覚え、昨日のミーティングから想定される質疑応答をシミュレーション作った。
これらは、私お得意の努力でどうにかなるものだ。