KODO開発株式会社はこの都市の駅近くの一等地に本社を構えている。営業本部の中に、営業部、企画部、開発部と別れており、緊密に連携を取りながら営業活動をしている。私の配属は営業部である。
早速、朝一番の営業本部朝礼で、全体に挨拶をした。

「古道愛菜です。本日よりよろしくお願いいたします」

頭を下げると拍手が起こる。皆、私が社長のひとり娘であると知っている。歓迎ムードというよりは、珍獣でも見るような無遠慮な視線を感じる。東京で大手企業に勤めていたなんて噂を聞けば、きっとそれだけで面白くないと感じる閉鎖的な人間もいるだろう。
まあ、いいわ。ここにいる全員、敵ではないけど、味方でもない。闘わずに認めさせなければならない。

「愛菜さん、早速ひとつチームを任せたくてね」

五十嵐営業部長が声をかけてくる。新規のホテル事業の案件があるというのは、知っている。計画から開業まで任せたいなんて聞いた気がするけれど、それは誘い文句のひとつで、実際は新規案件のチームメンバーになるのだろうと思っていた。なにしろ、ホテル業界は初めてだ。

「隣県S市のリゾートホテルの計画。社長や左門から聞いているかな?」
「いえ、詳しくは」
「あなたがチームリーダーということで動いてもらいますからね」

ちょっと、待ってよ。本気で私をリーダーにする気?
ズブの素人の私を? 社長のひとり娘だからって人事があからさますぎじゃない?
焦る私に、五十嵐部長が追加で言う。

「企画から土地の買収、施工まではすでに左門がリーダーで動いている案件です。この先も愛菜さんを徹底的にサポートするので、安心してください」

なるほど、私は優雅が手掛けていた仕事のトップを任されるらしい。絵に描いたようなお飾りのリーダーだ。
まあ、そりゃそうよね。いきなり社長が『娘が帰ってくるから、それなりのポジションを用意してやってくれ』って言ったらこうなるわよね。誰も私がどうやって社会人をしてきたか見たことないんだもの。