イラッとした私は鍵を優雅に押し付け返し、ぎりっと睨んだ。なお、後部座席に座った格好のままだ。

「左門優雅、あなたにはこの縁談はいいこと尽くめでしょうね。私の機嫌さえ取っておけば、会社と父の遺産が手に入る。副社長だろうが、社長だろうが、すべてを掌握するのはあなたになる」

優雅が笑みを消し、静かに私を見つめる。私はきつい口調で言った。

「でもね、すべてあなたの思う通りになると思ったら大間違いです! 私はあなたと結婚したいとは思っていません。それが会社のためでもね」
「今の僕の評価は限りなく低いのですね」

優雅が再び微笑んだ。あの取って付けたような腹の見えない笑顔だ。

「でも、僕は必ずあなたと結婚します。あなたに満足してもらえる男として、選び取ってもらえる男として。必ずです」
「……意味が通じてないようね」

苛立ちを隠さずに私は唸った。優雅はぱっと顔を離して、背筋を伸ばす。

「鍵はいつか受け取っていただけると信じています」

そう言って運転席に移動するのだった。