KODO開発は私の祖父が興した会社で、最初は海沿いのリゾートホテル一軒を経営する会社だった。それを一代で大きく興隆させたのは父・古道隆一郎だ。
県庁所在地の駅前に大きなシティホテルを建てたのが最初。それから県内の主要駅に次々とKODOと名の付くホテルを建て、隣県にもシティホテルとリゾートホテルを建設。さらに北陸の活性化を謳い文句に観光開発の分野にも進出している。
娘の前では穏やかで子煩悩な父親だが、客観的に見て相当のやり手である。そんな人物が選んだ後継者が左門優雅。私の夫になり、KODO開発の未来の副社長に就任する予定の男。
朝の自室にて、早速ため息が止まらない。
今日から私は、父の会社に出勤なのだ。
営業部の新規事業グループと聞いている。営業部の部長は私も知っている五十嵐さんという男性だったはず。父とは旧知で、忌憚ない意見を言ってくれる人だ。父は周囲にも恵まれていると思う。
とはいえ、いきなりやってきた社長の娘……未来の社長を快く思わない者もいるだろう。少なくとも、大抵の人間はお手並み拝見と値踏みしてくるはずだ。
それは受けて立つわよ。だって、未来の社長だと部下に認めさせなきゃならないもの。社長なんてあんまりやりたくないけれど、そういう目で見られる限りは期待外れなことはしたくない。
現在、私がため息をついているのはそこじゃないのだ。
朝から私を迎えに来て、リビングで待っている左門優雅の存在だ。
準備万端一階に降りると、優雅は立ち上がり、やわらかく一礼した。
「愛菜さん、おはようございます」
「お迎えとか、やめてくれませんか?」
あくまで距離を取りたいので、敬語で言う。ただでさえ、職場も一緒なわけだから、あまり親しげに見せたくない。こちらは不本意な婚約なのだ。