あんな男をちょっとでもいいかもと思った自分が情けない。
噂は仕事で挽回することができるだろう。何年かかっても、返り咲いて『あのとき私を見下したわね。これが私の実力よ。ざまあみろ』って言えるくらいの自信がある。

だけど、私の中で何かが決定的にしぼんでしまった。
それは失恋のせいだったのかもしれない。あんなダサイ男だけど、私は選ばれなかったのだ。アラサーの失恋は骨身にこたえる。『女として価値無し』そんなふうに言われたような気分。
私はくたくたに疲れていた。




幼馴染の真由乃は地元に住み、うちの父の持っているホテルのひとつで働いてくれている。離れていても、何かあると相談するのは彼女だ。
会社であったことを話したのは、たぶん精根尽き果てていたからだろう。あれだけあった自信も喪失していた。

『愛菜、一度こっちに戻ってきたら?』

真由乃は言う。

『東京と比べたら静かかもしれないけど、安心感はあるよ。愛菜の疲れた心にはいいんじゃない? ほら、お父さんの会社に籍を置いてさ』
『まだ、考えられないのよ』

口ではそう言いながら、それもありかなと思いかけていた。環境を変えた方が、気持ちの面では楽になるだろう。