これらの嫌な噂は、すべて直接投げつけられた言葉じゃない。聞こえるようにひそひそとオフィスやトイレ、休憩室で言われるものだ。直接じゃないから反論ができない。静かに静かに毎日針の筵で刺され続ける。

ああ、私は仕事ができるわよ。あんたたちの何倍もできるわよ。顔だって、ブスとは元が違うのよ。さらに時間かけて磨いてんのよ。
全部全部、私の努力! 私が頑張って得てきたのものよ! それを何も知らない連中が、ストレスのはけ口として踏みつぶしていく。

悔しい。悔しくて死にそう。

怒り、傷つく私がいる一方で、幸せなふたりは毎日仲良くオフィスで過ごしていた。栗原りりかはのびのびと適当に仕事をこなし、隣で小林くんはデレデレ笑っていた。ちょっと前まで私にしっぽを振っていたことを多くの人間が知っている。知っているけど言わない。今はこっちがヒーローとヒロイン。時流であり、正統だからだ。

小林くんは同調圧力に極端に弱い男だったようだ。私と栗原りりかの対決も、自分が関わらないで済むなら黙って見ているだけだったはず。名前を上げられたら、今味方をしておいた方が得になって、自分が良い格好ができる方を咄嗟に選んだのだ。圧倒的に情けなく、ダサイ男だったのだ。
そして、今は同じ職場にいる私への配慮もなく、毎日幸せそうにふたりで通勤し、オフィスで手作り弁当を食べイチャイチャする生活。