「美鈴。ご飯、よそって」


(大ちゃんは大学。この辺なのかな。)


「みすずー?」


(結局、先生に親と相談して決めろって言われたけど……お母さんならきっと『美鈴の好きにしていいよ』って私に決断を促すだろうし…)


「……美鈴さん…?」


(そもそも人に決めてもらうものでもないか…。ん〜〜〜……)


真剣に考えれば考えるほど、答えが遠く感じてしまう。ぼんやりとカーペットの縫い目を見ながら思考するより、紙とかに書きながら熟考した方がいいのかもしれない。


精一杯、思考している最中。


視界が一瞬にして真っ暗になる。


「え!停電!?」

「いや、俺が意図的に消しました。」


大ちゃんの声が聞こえる。なんとなく声のする方向を向いて、ソファに座りながら暗闇に目が馴染むのを待った。


「突然暗くなったらビックリするじゃん!」

「呼んでるのに反応しない美鈴が悪い。」


何を考えているんだろう。

大ちゃんは時々、私の予想のナナメ上の行動をする。


「付けてよ?」

「………無視した美鈴にはオシオキが必要みたいなんで。」

「オシオキって…」


そう言うけど、大ちゃんだって目が慣れるまで動けないだろうし…。別に部屋が暗くなったくらいで慌てるほど私は子供じゃない。

ゆらりと立ち上がって、自分で電気をつけに行こうとしたその瞬間だった。


《グイッ》


「わわ!!」


手首を背後から引っ張られて、膝がカクンと崩れる。勢いよくソファに尻もちを付いた。

それから間髪入れずに…。

湿った柔らかいモノが首筋を這った。


「わぁっ!」


驚いて声を上げると、大ちゃんは耳元で甘く囁く。


「夏だからって露出高い格好してると…俺みたいなオオカミに襲われるぞ。」


言われてみれば、確かにそうかもしれない。全然気にしてなかったけれど、ショートパンツにノースリーブのトップス。

でもこの服装は去年もしていたし、大ちゃんにとっては今更だと思った。


「あまり露出しないようにキスマークでもつけようか。」

「っ……心の準備が…」

「……準備なんていらないだろ」


再び舌先で私の首筋をゆっくり舐める。ゾクリと背筋から快楽が襲って、思考がぼんやりと甘く鈍った。

後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれる。触れる場所は熱くて、漏れる吐息がヤケに大きく耳に届く。


「オシオキじゃなくて…ご褒美だよ…」

「……その殺し文句…やばいな…」


背中全体で大ちゃんの温度を感じてクラクラする。密着している肌に神経が集中して、心地よさに溺れそうだった。


唇と首筋が離れて、高揚する音が響く。


そうして私は思った。


(こんなにも…そばにいるのに……)


「好きだよ。美鈴。」


(………想い合えて幸せで…)


「私も…」


それなのに。






「大好き……」






未来のことを考えると、押し潰されそうになった。