「……ぅわ〜…」


耐えられなくなって両手で顔を隠してしまう。本当なら笑って見つめ返して良い雰囲気創りたいところ…。


「……ごめん。次会うまでにはその…」


『気持ちを落ち着かせて出直してきます。』
そう伝えようとモゴモゴしている最中。


「その顔見せて…」


グイッと手首を掴まれて、左手が頬から離れる。そして覗き込んでくる智樹と目があって…。


「……っ…」


どんな風に智樹の目に私の顔が映ったのかはわからないけど。


「……智樹…顔が…」


今の智樹と、きっと同じ顔をしていると思う。


「………俺のこと本当に好きなのな。」

「疑ってたの?」

「疑ってないけど…。その……つられるから普通にしてろよ…あほ…。」


触られた手首が熱い。羞恥心に駆られて俯いていると、隣を歩く智樹は言う。


「……葵、良い匂いする」


智樹は知らない。


『俺も好き。なんの匂い?』


中学2年の夏休み最終日。
智樹の底知れない優しさに触れて、より一層好きだと実感した日。


「エメラルドスカイって言うんだって。」


あの日からずっと、好きな人に好きって言われた匂いを纏っている。


「エメラルドスカイ…。なんかイマイチピンとこないな。」


爽やかで透き通るような香りで評判の高いフレグランス。曇りがかった現実から逃避したくて、中学生の頃の私が選んだ香り。


その香りを、好きって言われた中学2年生の頃。


自分の選択を誇りに思った瞬間、ほんの少しだけ…。


「ねぇ、智樹。」

「なに?」


ほんの少しだけだけど、自分のこと好きに思えたよ。


「好きだよ」

「っ………」


思ってることがすぐ態度に出る智樹。


「私、好きになってもらえるように頑張るって決めたから!」







どうか、この選択が間違っていませんように。