そして現在、高校1年生の夏。


「美鈴に言った? 付き合い始めたこと」

「言おうとしたけど、タイミング悪くて言えなかった。……ていうか、俺、めちゃくちゃ乗り換え早いみたいに思われるよな」

「乗り換え遅いでしょ。私のこと、まだ全然好きじゃなさそうだし。」

「……切り替え早くて人生楽に生きられるようなタイプが羨ましい…」

「そんなタイプだったら私、好きになってないねー。智樹みたいなウジウジしてる人の方が好き」

「…………もの好き。」

「なんとでも!」


智樹は補習、私は部活。帰りが遅くなるのに、補習後30分くらい私を待ってくれた。

両想いとは言えないけど、この関係性に辿り着けたことが奇跡的で嬉しい。


「……ちょっと近くに寄ってもいいでしょうか?」

「どうぞ?」


きっと美鈴相手なら智樹は照れて挙動不審になるんだろうな。


(………負けたくない。)


マイナスな気持ちに、押し潰されないように頑張るんだ。


「……やっぱ…むり…」

「えっ?」


負けたくないのに、頑張って距離を詰めて好きになって欲しいのに。

緊張しすぎて、恥ずかしくて…。


「ドキドキして…おかしくなりそう…」


近づいただけで余裕がない自分を見られるのも、本当はいつもおかしいくらいに想っていた自分を知られるのも。


「ごめん…!気持ち悪いよね!ちょっと近いだけで余裕なくて…あぁ…えっと……補習お疲れ様!そういえばテストそろそろだね!」

「いや、話題の出し方下手くそすぎだろ」

「だって…! あぁ…じゃあ! 駅前にできたクレープ屋さん!あそこのいちごカスタードが美味しくて!絶対に智樹好きだと思う!」

「葵って余裕ないとめちゃくちゃ喋るんだな」


クスクス笑いながら、智樹は私のことを優しい目で見つめる。