部活終了後。軽度だし放っておけば治る、の精神で自転車置き場へとゆっくり歩いていた。


「お、葵じゃん! 部活?」

「っ……智樹…」


夏休み最終日。顔を合わせる時間が減る長期休みの最終日。


(……会いたくなかった…)


「うん、部活。智樹も?」

「おう。今日もハードだった〜」


智樹は徒歩通学。私が自転車を取り出している間も話しかけてくる。

きっと、一緒に帰る気でいるんだろう。


「宿題終わった?」

「うん。夏休み前半で頑張った」

「え、凄いなっ…。俺、終盤にならないとやる気出ないタイプだから…まだまだあるんだけど…」

「ふっ…! それ、去年も言ってたよ?」

「まじか…。よく覚えてるな?」


覚えてる。忘れたくても、覚えたまま風化することもなくて。


苦しい。


「………葵さ、なんか足引きずってない?」

「……」

「気のせいかもだけど、痛そうに見えて…」


自分のことに関しては鈍感なくせに。


「軽い捻挫だし大丈夫」


計画性なくて、宿題も沢山貯めるくせに。


「軽くてもナメてたら大変なことになるぞ?」


好きな子へのアプローチの仕方も下手くそなくせに…。


「顧問の先生に言った?」

「言ってない。」

「……そうやっていつも溜め込むの良くない」


知ったような口を聞かないで…。


「……大袈裟…」

「大袈裟でも、友達のこと心配することくらい許せよ。」


周りに誰もいない、静かに夕陽が射す駐輪場。


「………」


心は忙しくて、なんかわからないけど、涙が出そう。


「………よし!強制!おんぶして帰る!チャリは置いていこう!」

「勝手に決めないで。目立つの嫌だし…」

「…………軽いって言ってたけど、多分それ、悪化してるぞ。隠して部活続けたんだろ?」

「新体制になってこれから頑張ろうって空気に水を刺したくないもん。」

「気にしいだもんな、葵って。」


ストンと私の前に背を向けてしゃがむ。

好きな子相手にはきっとこんなことしないんだろうな。


「………」


美鈴にも、こんな風に強引に優しくすれば良いのに。


「……重いよ…?」

「鍛えてるから大丈夫!」


中学2年生になって身長が伸びた智樹。声も少し低くなって、性別の差を感じるようになった。


「……失礼します…」

「ははっ他人行儀!」


思い切って…。


「よいしょっ…と…」


おんぶされたまま、校門を出た。

歩いているところを人に見られずに済んだ。遅くまで時間を潰したおかげだ。


「……葵、なんか良い匂いする」

「変態発言やめてよ。」

「制汗剤? 爽やかな匂い」


ジンジンと痛む足首を忘れてしまうくらいに心臓が大きく脈打った。顔は熱くて、多分、かなり赤い。


「……智樹…ありがとう…」

「どういたしまして」


恥ずかしくて首に手を回すことはできないけれど、触れている場所全部から温かさを感じる。


きっと、そばにいる限り、この気持ちを捨てることはできないんだと思う。


「……好き…」


気持ちが口を突いて溢れた。


「俺も好き。なんの匂い?」

「………ふっ…あはは!」

「っ…なんか俺、変なこと言った?」

「ううん!なんでもない!」


好きだよ。


不器用で、計画性がなくて、好きな子のアプローチの仕方が下手な智樹。


ズル賢く、この恋を頑張りたい、なんて思ってしまった。


諦めたくない。


そんな風に思ってしまう自分を許して欲しい。