中学生になって。
親友のことが好きな男の子を好きになった。
「美鈴、今度のテストで俺の方が点数高かったらテスト後の休日、荷物運び手伝って」
「女子を荷物運びとして使う人、本当に最低だと思う!」
わかりやすいこと、この上なし。目で美鈴のことを追ってはモヤモヤした顔してる。
テストの結果は確か、美鈴が勝った。
ほんの数点の差でデートの誘いを断られて可哀想だ、と思いつつ、内心私は喜んだ。
「荷物運び、私が手伝おうか?」
「いや、いい。」
好きな子以外はアウトオブ眼中。……『アウトオブ眼中』って、もう死語かもだけど。
一切私のことなんて見向きもしない。美鈴だけが智樹の中で特別で。
童話の中なら絶対的なお姫様。私はそこら辺の小人、もしくは物語をかき乱す魔女が似つかわしいだろう。
「美鈴はいいなぁ…」
「なにが?」
ある日、唐突に心の声が漏れたことがあった。恋愛ばかりに脳が侵食されるのは嫌なのに、本当に、唐突に口が滑ってしまった。
「美鈴って手先器用だし!料理できるし!羨ましいなって!」
嘘偽りのない本心を並べて、その場を切り抜けようと試みる。
智樹の恋を邪魔したいわけでもなくて。でも、大切に想っている友人の恋路を一番に応援したくて。
複雑な波間でゆらゆら揺らめく。
心はいつも曇天で、分厚い雲が覆っていた。
「私は葵ちゃんが羨ましいと思ってるよ!」
「えっ」
いきなりのカウンター。
驚いて私は美鈴の表情を確認する。その表情はまさに真剣そのもの。
「優しい!面倒見が良くて自分よりも他人を優先する!気が効くし、バスケしてるところかっこいいし!」
美鈴の良いところって、ここだと思う。
普通、褒められたら裏があるんじゃないか、とか簡単に受け入れられないことの方が多いのに。
人を調子に乗らせるのが上手い。心の底から思ってます、っていう態度が伝わってくるから疑いようがない。
「私、葵ちゃんの親友なのが誇らしい…」
顔を赤くして、伏し目がちに言うから。
「……照れるよ…。美鈴のばか…。」
よく物語の登場人物でいる、『好きな人の好きな相手を攻撃する女』って本当に存在するのかな。私には到底、できそうもないや。
「親友……嬉しい…」
たったの1単語で舞い上がってしまう。
親友ってなんだろう。
どんな定義だろう。
親しい友。何を持って親しいって定義することができるんだろう。
(……美鈴のこと、本当に大好きだなぁ。私。)
美鈴に褒められたら、グチャグチャな私の心境が暖かい陽気で包まれる。いつもそう。
親友でありたい。
でも、この隠し事をしている関係を親友と呼んでも良いのかな。
ならば、いっそのこと。
私が智樹を好きじゃなくなれば良い。
そうしたら美鈴に対する隠し事は消えて、智樹に見向きもされなくて落ち込むことはなくなる。
叶わない恋に苦しむなんて嫌だ。
青春を謳歌したい私は、好きな気持ちを消すことに躍起になった。