「苦しくないか…?」
「大丈夫…」
病人の私を気遣って短いキスを何度も何度も。触れて離れてを繰り返せば繰り返すほど、深いものを要求してしまいそうになるから、心底、糖度高いのって怖いと思った。
思ったけど。
「……口、開けて…」
低音の中に優しさが詰まっている声音で紡ぐ言葉に喜ぶ自分がいる。
言われた通り、従順に口を開ければ大人なキスが始まった。
きっと大ちゃんも慣れていない。ぎこちなくなりながら体温を求めて貪(むさぼ)る。
「………クラクラする…」
「やめるか?」
「……ううん」
心臓がおかしくなりそう。でも心地よくて、気持ちが良くて…。
「やばいな…」
「……なにが?」
「いや、こっちの話。」
指を絡めて見つめ合うと、大ちゃんはため息をつく。
私に対してドキドキしてる姿を見ると身体の内側が多幸感で溢れかえり、中枢がおかしくなったみたいに再び求めた。
………けれど、応えてもらえずに今度は私を腕の中に閉じ込めてキスを拒んだ。
「……今日はもう終わり。……治ったらな…」
「えぇ…やだ…。今がいい…」
「……あのな…」
「いいじゃん…。病人を労って…」
「………ごめん。無理。」
目一杯、不服そうな顔をして大ちゃんを睨む。今まで散々あまあまな要求を叶えてくれたのに。
……こういう時の大ちゃんは、どんな風にお願いしても受け入れてくれない。
ひとつ、軽いため息を吐きながらガックリとした私は寝返りを打って大ちゃんに背を向けた。
「少し寝るね」
「うん。おやすみ。」
ベッドから降りて、ポンポンと優しく私の頭を撫でる。いとも簡単にマイナスな感情を消し去る行為に心の内で驚きつつ、ゆっくりと瞳を閉じた。
そして睡魔に身体が侵食されて夢か現実かもわからなくなった頃、大ちゃんは言う。
「……一生…俺だけの美鈴でいて…。」
「好きだよ」
舞い上がる感情に微かに触れて、『プロポーズみたい』と心の中で笑った。
夢かもしれない世界の中で、私の頬は緩みっぱなしだった。