「………」


家に一度帰って着替えてきた大ちゃんをボーッと見つめる。


(私服かっこいぃ…)


具合が悪い。
身体は重たいし、心は豆腐メンタル。

誰かに思いっきり甘えたいし、甘やかされたい。


「…………」


でも、ふとした時に我に帰る。

理科準備室に閉じ込められて、私は大ちゃんに連絡しなかった。返信せずに、既読だけして智樹と2人きりの時間を過ごした。


とてつもない後ろめたさを感じる。


「……大ちゃん…?」

「ん?」


優しい手つきで私の額に冷たいタオルを乗せる幼馴染を見つめて名前を呼べば、柔らかい声音と眼差しで反応してくれる。


あぁ…なんて…。


なんて、私は酷い女なんだろう。


「ごめんね。」


都合の良いように大ちゃんを扱っている。


連絡しなくてごめんね。
迷惑かけてごめんね。
こんな彼女で、幼馴染で、ごめんね。


身体が弱れば心も弱る。


ただでさえ、自分の精神力に自信ないのに。


「……ごめん…」


困った顔をさせてしまっていることに、気づいているのに、私は謝罪の言葉を重ねる。


「………」


大ちゃんの顔を見るのが怖い。

ヒかないで。
愛想尽かさないで。
嫌いにならないで。

願わくば、ずっとそばにいて…。


「……ごめ…」

「謝罪より、お礼言われたいんだけど。」

「…………お礼…?」

「見返り求めて看病してるわけじゃないけどさ、謝られるくらいなら『ありがとう』って言われたい。」


いつものクシャッと笑った大ちゃんの笑顔が目の前にある。優しく頭を撫でながら、私の返答を待っていた。


「……ありがとう…」


大きくて今の自分よりも冷たく感じる手。頭部からゆっくりと首筋に触れて、ひんやりとした感触に弱った心が癒される。


「……大ちゃんの手……落ち着く…」

「っ…」


照れた顔をして、大ちゃんは一度手を退かす。冷たく感じる手の温度が名残惜しく感じた私は、無意識に欲した。


「もっと撫でて…」


幼馴染の時から甘え方は変わらない。

でも、あの時とは大ちゃんの表情も態度も纏う雰囲気も違う。

もう一度触れて貰えれば、さらに心は温かく和らいで…。求めていた手の温度に、純粋に思った。