中で何かが倒れるような音がした気がする。
(まさか、美鈴…?)
他の人の声も聞こえてきた。誰だかわからないけど、声は低いし確実に男だ。
慌ててドアを開けようとすると、鍵がかかっていてビクともしない。
「っ……おい!どうした?」
焦った声で問いかける。
そしてそのタイミングで…。
「ん? 吉澤?」
「っ!先生!」
姿を表したのは美鈴のクラス担任、『佐藤』だった。
「中から美鈴の声がして…。でも鍵がかかってて入れないんです。内鍵もないみたいだし。」
「あー…。閉めたって高野先生が言ってたから…作業終わって本田と真島帰ったと思ってたんだけど…」
「鍵は?」
「持ってきた。」
貸してもらうように催促して受け取った俺は無我夢中で鍵穴に鍵を差し込む。ガチャリと音が鳴り、勢いよくドアを開けると…。
倒れている美鈴が目に入った。
「っ…」
美鈴を支えている男と視線を交えたが、お構いなしに俺は美鈴のことを横取りするように抱きしめる。
(熱いな…)
美鈴の前髪を手で退けて、額同士をくっつけた。
「……知恵熱かな。美鈴、悩み事抱えると高確率で熱っぽくなるんだよ。」
モヤモヤする。
色々と。ずっと、さっきから。
「……すいません。俺が…告白なんてしたから…」
「…………」
この智樹は美鈴の友達だ。
俺のいっときの感情で冷たく当たって、気負いさせてしまうのは良くない。
グッと堪えて、言葉を紡ぐ。
「謝らなくて良いよ。智樹くん、だっけ?」
「はい。」
「……『二度と関わるな』とか、『嫌いになれ』なんて強制するようなことは言わないけど…。」
「…………」
「……奪いに来るなら奪いに来ればいい。」
こんな時くらい、彼氏として格好つけてもいいよな。
「受けて立つよ。」
背後にいる先生のことを無視して、大事に美鈴のことを抱きしめながら言った。