「会議、いつ終わるんだろうな」


作業を全て終えて私と智樹は呑気に校庭の方を見つめていた。

大ちゃんが通らないかどうか密かに確認する自分は、複雑な心境で脳内グルグルしている。


「18時までに終わるって言ってたんだけどなぁ…」


正直、今になって気まずい。
友達として変わらずに接して欲しいって智樹は言うけれど、そもそも『友達として』の接し方を忘れている。

私、どんな風に智樹と話してたっけ。


「…………」


なんか、考えれば考えるほど頭痛くなってきた。


「………冷房消さない?」

「寒いの?」

「うん。」


何も話題が見つからない時、大抵は天気や気温の話をするのがセオリー。

『あ、この人話題尽きたな』って思われないように自然にするのが鉄則。


「確かに気温差激しいって聞いたわ。」

「ニュース?」

「そう。『ZIG』でさ」

「智樹の家はZIG派なのか。私の家は『目覚めたテレビ』派なんだよね〜」

「そういえば最近、メインキャスターの人が…」


話題が膨らんだおかげで、なんとなく昔の感覚を取り戻していく。

そうだ。
いつもこんな風に、私は智樹と話していた。


「美鈴の大好きなずんだ餅の特集してたぞ!」

「おぉ?確かに好きだけど、それは揶揄うつもりで話題にあげた?」


こんな風に、戯れて、軽く憎まれ口たたいて。


「それでさ、寝ぼけた母さんが言うんだよ。『ビビンダ食べたい』って!ビビンバのことビビンダって言ってたの後からジワジワ来てさ!」

「確かにジワる!」


こんな風に、しょうもないことで笑って。


「………」


時間がかかるかもしれない。

新しい関係性に戸惑ったとしても、智樹と私なら大丈夫だ。


前向きに、大きく私は深呼吸をした。


その時。


《コンコンコン》


ドアをノックする音が聞こえてきた。


「美鈴、いるかー?」

「大ちゃん!?」


ドクンと心臓が跳ね上がる。衝動的に私はドアの方へと駆け寄ろうと椅子から立ち、身体を廊下の方へと向けた。

そして…。


《ぐらり》


「っ! 美鈴!!」


智樹の声が遠くに感じる。


(あれ…?おかしいな…。)


「大丈夫か?」


(足に力、入らないや…)