教室は吹奏楽部がパート練習で使うことになっていた。先生が許可したらしい。


「……雑用するなら教室がよかったなぁ。」

「理科準備室って人体模型あるし、なんか不気味だもんな。」

「そう!動き出すの想像すると怖い。」


何もなかったみたいに、作業をしながら智樹と話す。会話はたわいもない会話。なのに、何処か心地よくて、作業に対する億劫(おっくう)さを感じることなく淡々と進められた。


(……よかった。)


昨日の夜、大ちゃんに『気にする必要ない』って慰めてもらったことを思い出す。

本当に気にする必要なかったのかもしれない。


「……あー、そうだ。」


パチンパチン、とホッチキスの音が夕方の理科準備室で響く。そんな中、智樹は真面目な表情で話を切り出した。


「………美鈴への気持ちにしっかり蹴りつけるから。これからは、親友として仲良くして欲しい。」


本当に、気にする必要、なかったのかな。


「…………うん…」


気持ちを殺す難しさを、苦しさを、知っている。

結局ずっと恋したまま、フラれても諦めきれなくて…。

心の底から、辛かった。


「…………」


『気にする必要』ないわけがない。

少しでも、距離を取らなきゃ。

今までも同じじゃないんだ。
同じで居ちゃいけないんだ。


「………………あと…その…」

「?」


首を傾げて、智樹が次に言おうとしている言葉に聞き耳を立てる。


その瞬間だった。


《ガチャッ》


「…………え…?」


ドアの方から、耳を疑うような音が味気なく鳴る。


「………」

「……………やばいな…」


これはきっと、大切な友人の想いを蔑ろにしようとした私への罰だ。


「外から鍵かけられた…?」


夕焼けの光が綺麗で、電気はつけなくていいかと思いながら作業をしていた。

理科準備室の管理している先生は担任の先生とは異なる理科の先生。
時刻はいつの間にか17時半を過ぎている。


《ドンドンドン》


「まだ中います!!あけてください!!」


智樹の声とドアをノックする音にハッとした。


「会議終わったら飲み物奢ってくれるって言ってたし、このまま夜過ごすことはないと思うけど……。うわぁ…俺、スマホの充電切れてるんだよな。」

「私のスマホ使って助け呼ぼう…!」


冷静になろう。別に1人で閉じ込められたわけではないし、手元にスマホだってある。

先生が後々来ることも知ってるし、何も、慌てることない。


「………」


バッグからスマホを取り出して、電源をつけると…。


『美鈴、何処にいる? 今、生徒会終わったよ。』


大ちゃんからのラインが目に入る。通知が来たのは3分前。

きっと、今連絡をすれば助けに来てくれる。

だけど…。


「………」


大ちゃんの話題を智樹にするのが忍びない。

これ以上、智樹を傷つけたくない。
これ以上、智樹と気まずくなりたくない。

どうしよう…?

どうしようどうしようどうしようどうしよう?


「……連絡、つきそう?」

「…………えっと…」


葵ちゃんは…駄目だ。
部活中にスマホ見ないだろうし…。

他の友達は…とっくに帰った。


「………ごめん…。誰も連絡取れないや…。」


私は、嘘をついた。