「美鈴と一緒に帰れる日が来るなんて、なんか感慨深いな」
「その言い方、お父さんみたい」
入学式を終えて早々、一緒に帰ろうと誘うべく、私は大ちゃんを校門で待ち伏せをした。
大ちゃんを見つけて話しかけたら注目されて気まずかったけれど…。
(幼馴染アピールよぉし!)
いちいち気に留めていない私は、牽制の意味を込めて満面の笑みで大ちゃんの隣を歩いた。
「スーパー寄って行こうか。うち、今日誰もいないし。料理作らなきゃ」
「おじさん、おばさん仕事?」
「ああ。」
共働きで忙しい大ちゃんの両親。
私の家族はというと、父は私が幼い頃に病気で他界して、母は私と弟の春太(はるた)を女手一つで育ててくれた。
寂しいなんて思ったことはない。
父親との記憶はあまりないし、物心ついた時から大ちゃんがそばにいてくれた。
「美鈴のお母さん、今日も仕事?」
「うん。入学式は来てくれてたよ。今日は午後からお仕事。」
「そっか。春太は友達と遊びに行ってるんだっけ?」
「多分、晩御飯は一緒だと思う。」
「じゃあ3人で美鈴の入学祝いだな〜。頑張って作るか」
「手伝うよ。」
「おう。ありがと。」
クシャッと笑って、大ちゃんは私の頭を撫でる。
いつもいつもそう。
お兄ちゃんみたいに広い背中を見れば、胸が熱くなってドキドキうるさい。
触れられた場所ばっかりに神経が集中して、呼吸することをわすれてしまう。
「大ちゃん。あのさ…」
「どうした?」
柔らかい表情で、振り返って私の顔を覗き込む。
「………カレーがいい」
「承知しましたー。」
伸びた影に、バレないように寄り添って。
少し前を歩く大好きな人を無言のまま見つめた。