夕食を摂り終えて、食器も片付けた後。

美鈴はソファとローテーブルの間のスペースにチョコンと座っていた。カーペットの上でボーッとしている姿は、心ここに在らず状態で。


「そろそろ美鈴のお母さん帰ってきそうだな」

「……」


華麗なスルー。
俺の落ち込みメーターがほんの少し蓄積される。


「……美鈴?」

「うん」

「………美鈴さーん?」

「………」


ここまでくると、居ても立っても居られなくなった。


《グイッ》


クッションを退けて美鈴の背後のソファに座り、思いっきり美鈴を抱き上げる。


「わっ…!」


そうしてやっと、びっくりした表情で俺の方を顔だけ向けると、真っ赤になって質問してきた。


「なっなに…?急に…」


後ろから抱きしめながら、耳元で答える。


「なんか悩んでるだろ。」


俺に隠し事しようなんて100年早い。無理矢理聞き出すのは良くないと思いつつ、でも放っておいても解決しなさそうだし。

なんだったら俺絡みで悩んでるかもしれないし。


(……彼氏としては…無視できないじゃんか…。)


自分で思っておいて恥ずかしくなる。早鐘を鳴らす心臓が美鈴にバレないように…。


「………言わなきゃ…この小さな耳…食うからな…」


柄にもないことを口走る。慌てて耳も紅く染め上げた美鈴は言葉にならないような声を発していた。

でも、まだ悩みの内容は言おうとしないから…。


(………好きな子って虐めたくなるんだな…)


今なら、美鈴のことが好きだと言っていた智樹って奴の気持ちがわかる気がする。


《カプッ…》


耳たぶを甘噛みしてみると、ビクリと華奢な身体を震わせた。


「待っ…大ちゃん…」

「子供っぽいって…笑うか…?」

「へ…?」