呆気ない。


一緒に帰るのは気まずくて、項垂れたまま何となく教室に戻った。

机に突っ伏して数分後、手が疲れたら体勢を変える。カーテンが風を向けて揺れるのを横目で見ては目を瞑る。

そんな何の意味もない行動を繰り返していると…。


「フラれた?」

「………葵って物言いがストレートだよな。」


葵の声が頭上から降り注いできた。
しかも、美鈴を遥かに上回る察しの良さを活かしてか、気づいて欲しくないことまで気付いて声をかけてきた。


「だって空気がどんよりしてるし?」

「余計なお世話だよ。……てか、部活は?」

「休憩中。タオル、教室に置き忘れたから取りに来た。」

「あっそ。」


なんてタイミングが悪いんだろう。

それは、俺も…同じか…。


「……お前がカマかけたから…」

「私のせいにするのー?」

「………いや、俺が……悪いっていうか…勢い余って…その…」

「ウジウジ男くんはしばらく立ち直れなさそう?」

「変な呼び方すんな。」


あー…かっこわるい。

こんなの軽い八つ当たりだし、落ち込んでるのモロバレだし。


「……ごめん。」

「…………あんたが謝るのおかしいでしょ。」


謝れば済む、なんて、告白された時と全く成長していない自分の考え方に、嫌気がさして更に落ち込む。


「告るつもりなかったのに。自己中心的な考えで伝えて、あいつを悩ませた。暗い顔させた。……何が『幸せでいて欲しい』だよ…。結局……諦めるための言い訳でしかなかった…。」


悔いて悔いて、そしてその先に、何があるかなんて分かりもしないのに。


「『ありがとう』『嬉しかった』って言われて、勝手に報われた気になって……全部俺の自己満だった…。」


そう…ただの自己満足。

全部が自己満足なんだ。


「………智樹ってさ…ウジウジしてて女々しくて面倒臭いね。」


グサっと刺さる言葉に、ぐうの音も出ない。


「………でもさ」

「……?」

「そのウジウジが…智樹の優しさなんだよね」


その日一番の風が吹く。カーテンが大きく揺れると同時に、顔を上げると…


「っ……は…?」


額に柔らかい感触をもった。至近距離に葵の顔があって、夕焼けに照らされた顔は紅く見えたように感じる。


「……隙あり…」

「……な…にして…」

「何って…チュー。」

「っ…!」


この一瞬で急激に心臓の鼓動が速度を増した。


「………自己中って私みたいな人間のことを言うんだよ。」

「………」

「好きって伝えて、相手が傷ついたり悩んだりするのなんてどうでもいい。散々、私のことで悩めばいいって思う。」

「は…?」

「智樹は優しいよ。美鈴の気持ちを考えて、今、こんなに後悔してる。それだけで、智樹の優しさが溢れてて………」

「待っ……頭が追いつかないんだけど…」

「………ゆっくり考えてよ。智樹の落ち込んでるところにつけ込むくらい性格の悪い私だけど……」




「智樹のこと好きだよ。」