そしてその日の昼休み中、教室に戻ってきた葵が言う。


「美鈴、先生が呼んでたよ。今から教務室に来いって。」

「わかった。行ってくる!」


美鈴は廊下へと進んでいく。完全に見えなくなるまで、小さな背中を視線で追いかけた。


「……このままでいいの?」

「………葵には関係ないだろ」

「……そうだね。」


このままで『いい』とか『悪い』とか、そういう問題じゃないだろ。

今更行動を起こしたところで現状は変わらないし、なによりも。


「………美鈴が幸せなら…それでいい。」


運命の赤い糸。そんなものが存在するとしたら、きっと美鈴と大輝先輩は切っても切れない糸で結ばれてるんだと思う。


(……こんなメルヘンな発想してるなんて、馬鹿馬鹿しいな。)


「……ばっかみたい…」

「っ…」


葵に心の中を読まれたかと思った。何も言わずに葵の顔を見ると、目を細めて俺のことを睨んでいる。


「…『相手の幸せを願う』なんて、ただの言い訳でしょ?」

「言い訳って何のだよ…?」

「諦めるための言い訳」

「………諦めるも何も…失恋したし、今更………。てか、俺にカマかけたって無意味だろ…。」

「……私にとって、美鈴が両想いになれたのは嬉しいことだよ。喜んだけど…。智樹が暗い顔してるのは、なんか嫌だ。」

「別に俺は…」

「後悔は絶対にしてほしくない。……あー!でも!智樹が告白したら美鈴の悩み事が増えちゃうか…!」


忙しないやつ。

『後悔するな』ってカマかけてきたくせに、『でも親友の美鈴が悩むのは嫌だ』、なんて…。

俺にどうして欲しいんだよ。


「………自己中」

「なんとでも言えばいいよ…。智樹ってしっかりフラれないとズルズル引きずりそうじゃん? 私なりの気遣い。」

「余計なお世話だよ」


複雑な心境でグルグルしてるのは俺だけじゃないらしい。