「真島くんのことが好き。………付き合ってください!」
それなりに中学に入ってモテていた俺は、放課後、同じクラスの女子に呼び出された。
夕方。2人っきりの教室。
ロマンチックなムードが女子は好きらしい。
今更告白されても、なんとなく察しはついていたから驚くことはなく…。
「……気持ちは嬉しいんだけど付き合えない。ごめん。」
これくらいしか、言えなかった。
「なんで?」
『なんで』と言われましても…。
フるのに理由もセットで添えなきゃいけないなんて、誰が決めたんだろうか。
「………」
『好きな人がいる』の一言くらい、言葉にできたらいいのに。
この頃から、いや、昔からずっと俺は捻(ひね)くれた天邪鬼なままで、素直になることが難しく感じていた。
「………ごめん。付き合えない。」
今思えば、勇気出して告白してきてくれた子に対して酷(むご)い対応だ。
「真島くんって言葉のキャッチボールができないんだね。一気に冷めた」
理由を訊かれたのに、ただ謝った。それだけでこの言い草か。
「ごめん」
なんとも酷い言い草に感じていた…けど…。
「…………うん…」
目に涙を溜めて言葉が震えていることに気づいた瞬間、彼女の気遣いが詰まっていた言い草なんだと俺は思った。
「じゃあね!ありがとう、来てくれて。」
颯爽とその場を去っていくクラスメイトに何か言うわけでもなく、手を振り返すだけで。
(……最低だな、俺。)
告白することの難しさも、大変さも、どれだけ勇気がいることかも。
全部、全部知ってたのに。
「……あれ?智樹?まだいたんだ」
もやもやした気持ちを抱えながら声が聞こえた方向を振り向くと、美鈴がいた。
「………よぉ。」
……『よぉ』なんて普段言わないような言葉しか出て来なかった。それくらい、気が抜けている。
「課題忘れちゃってさ〜…。置き勉してた教科書に挟んでたの思い出して…」
美鈴は自分の机の引き出しの中をゴソゴソと漁る。数学の教科書を取り出して、今日の授業で配布されたプリントをカバンの中にしまっていた。
「……智樹、もう帰る?」
「いや、えーっと……」
特に用事もないし、さっさと帰って晩御飯を食べたい。でも、教室で一人黄昏(たそがれ)ていたい気分でもあった。
複雑な心境に曖昧な返事を返すと…。
「まだいるなら私も一緒にいようかな。」
美鈴は俺の近くまで来て、ストンと椅子に座る。距離の近さに驚き、俺は一歩後退りした。
「なんで?」
「なんで、って……んー…なんかさ」
「?」
「智樹、元気ないじゃん?」
いつもいつも鈍感そうに見えるのに。
「お前って変なところで察しがいいよな。」
「『変なところ』じゃないし。智樹のピンチは私のピンチだもん。……心配するくらい普通でしょ?」
散々言い争いばかりしてきた。好かれるよりかは嫌われてると思っていたし、腐れ縁みたいな関係性だと認識していた。
「……素直で羨ましいよ。」
真っ直ぐに俺を捉えて離さない黒い瞳に、吸い込まれそうになる。
羨ましい。
どうしたらそんなに素直になれるんだ。
どうしたらそんなに優しくなれるんだ。
どうしたら…。
「元気ないならさ、美味しいものでも食べに行く? あ!駅前にできた……えっと…もんじゃ焼きのお店!葵ちゃんも誘っていこうよ!」
素直なのも、きっと才能なんだと思う。
その美鈴が持つ才能が、眩しくて、愛しくて…。
真っ直ぐに見れなかった。