「………今日、たくさん甘やかしてもらって…私からは何も大ちゃんにできなかったから…。リベンジしようと思って部屋に招いたら見た目に関して努力してるのバレて……。格好悪い…私…。」


小さなため息をつくと、続いて大ちゃんが話し出す。


「……ごめん。俺はかなり幼稚だった。」

「……え? 何処が…?」

「……………」


思い当たる節が全くない。

大ちゃんが幼稚?
何処が?

デートを振り返るけれど、何もコレと言ってわからず…。
次に続く大ちゃんの言葉を待った。





「…………美鈴の好きなやつは俺だろ…?」





真剣な眼差し。彼の眼光が私に向けられる。
その表情に釘付けになった。


「…フったのに……みっともないよな。……智樹って友達の話を聞いてると…どうしようもなくモヤモヤした…。美鈴は俺のことが好きなのにって…思う…。」


耳まで真っ赤な大ちゃんを前にして、私は今にも泣いてしまいそうだった。


「………独占欲みたいなのが湧き上がってきて、気づけば距離を置くようなこと言って…。何が『彼氏っぽい』だよ。」


卑下しなくていいのに。私にとって、すごく嬉しい言葉なのに。


「大ちゃん…」


それ以上言わないで。責めないで。


嬉しいよ。


だって…こんなのまるで……。




「………美鈴に彼氏ができるなら……俺が………いいのに…」




私を好きって言ってるみたいだよ…。




ぶわっと一気に感情が涙となって流れ出る。

夢なのかな。

本当はもう眠ってて、自分にとって都合のいい夢を見ているだけなのかな。


「…………そんなに言うならさ…」

「……うん」


この後、私が言う言葉を大ちゃんは待っている。

私の顔を見つめながら、泣いていることに触れないまま…。

次に言う言葉を知りながら。



「彼氏になって欲しい…です…」

「……いいよ。」



嬉しくて舞い上がって、衝動的に体が動いて大ちゃんに近づく。そして大ちゃんを抱きしめた。

告白する前はハグなんて、どうってことないって感じだったのに。

大ちゃんの心臓が大きく脈打ってるのがわかる。明らかに昔と違うリズムに、喜びを噛み締めていると…。


「今日の美鈴、可愛かった。服装も髪型も…。あと待ち合わせの時に駆け寄ってくるのも……グッと来た」

「…ぇ…ぅわ……心臓爆発する…」

「そんな簡単に爆発したら大問題だな」


表情を見つめると、昼間していた笑顔を浮かべている。目尻がクシャッとして口角が上がっていて……可愛さを感じる笑顔。


「……大ちゃん…好き…。ずっと昔から大好き…。」

「っ……あぁー…もぉ…」

「うふふ〜」


ニヤケが止まらない。頬を紅潮させている大ちゃんも可愛い。



好きな人が自分を好きな世界に憧れていた。

どんな風に景色が目に映るんだろう。

本当に薔薇色なのかな、なんておかしなこと想像して…。



こんなにも…幸せで、泣きそうになる世界なんだ。



早鐘を打つ自分の胸を落ち着かせるように手のひらで摩(さす)る。深呼吸をしながら気持ちを穏やかにしようと試みている最中…。



「……美鈴が…悪いから…」



背中に回されていた手が私の頭を撫でる。そのまま後頭部の髪を掻き上げてグッと大ちゃんは顔を近づけた。



「っ…」



突然のキス。唇を軽く重ねて離れていく。



「煽るなよ…」

「煽ってなんか…」



口答えさせまいと、大ちゃんは再び私の顔を固定して口付けをした。



「………俺…大切にするよ。美鈴のこと…たくさん甘やかせて…寂しいなんて気持ち一つも感じさせない。」

「……私も大ちゃんのこと…大切にする。」

「………ありがとな」



どちらからだろう。わからないくらい、気づけば、自然と。

磁石が引き寄せ合うように。



唇を再び重ねた。