嫌な気分が身体中を支配する。
『今日はいい一日中だった。宝物みたいな日だ。』
それは大ちゃんに、そういう1日にしてもらえたから。
「…何かする。……大ちゃんに今日のお礼したい…!」
「えっ…いやいや。だって今日は俺のお願い叶えてもらったし」
「歩き回って疲れたよね! マッサージする! ちょっと大ちゃん、下がってて!」
「っ…危ないから…飛び移るなら俺が行く」
「………私の部屋散らかってるし…」
「そんなのいつものことだろ…?」
うっ…。そうでした。
部屋の汚さはいつものこと。だけど、こんな風に言われると傷つく。
特に今日なんて雑誌類が散らばったままだから、ピカイチで汚い。
1人で慌てていると、大ちゃんは軽々と私の家のベランダへ飛び移った。
グッと近くなる距離に鼓動がドクドクと高鳴る。
全身が心臓になったみたいに振動するから、落ち着かせようと深く呼吸を繰り返した。
「………散らかってるよ…。覚悟して入ってね…。」
「さっき美鈴が来る時、チラッと見えたから大丈夫」
「うぅ…」
恥ずかしさを堪えて、お招きする。
時計を見ると時刻は夜の10時ごろ。
「……明日、朝早くない? 大丈夫?」
「いつも通り。6時起きかな。」
何気ない会話で気を紛らわせる。自分の部屋に大ちゃんがいる状況がなんだかんだ久々で…。
思えば告白してから距離感があったせいでこんな風に2人でゆっくりすることはなかった気がする。
「……俺、別にマッサージしてもらわなくてもいいんだけど。」
「えっ…!」
飛び移る前に言ってくれたらいいのに…。唖然としていると、大ちゃんはラグに座って床の散らばった雑誌を積み上げ始めた。
「っ…わわ!掃除は自分でするから!」
「気になったんだよ。別に誰がやったって同じだろ。」
「いやいや! これは譲れない…!」
慌ただしくガサガサと床に落ちている本を掻き集める。5冊ほどの雑誌にプラスで私が書いたメモ類。
女子力の低さに呆れられていると思い、落胆していると………。
ふと視界に入った大ちゃんが黙ったまま雑誌をピラピラと開いて眺めていた。
「……大ちゃん…?」
興味あるのかな。最近は男の人でもメイクするし、乙女心を学ぶのに良いとかタレントが言ってるの聞いたし。
首を傾げて見ている私の方を向いて、大ちゃんは口を開く。
「……この髪型…今日の美鈴がしてた髪型…」
「っ…あ……うん…。なんでそんな…」
何冊もあってピンポイントでヘアアレンジのページを当てられて、なんだか気恥ずかしい。
「……付箋貼ってあったから、何かと思って。ここも…」
ペラっとめくられる。
次のページに記されてあったのは、『デートで失敗しないための10箇条』というもの。
そこにもしっかり私は付箋を貼っていた。
「待っ…うわぁ…!恥ずかしいから没収!!」
大ちゃんの手から雑誌を奪い取って勉強机の上に、雑に置いた。
それからしばらく沈黙は続く。
気恥ずかしさと気まずさのせいで私は黙ったまま俯き、ベッドの上に座る。次に何を言おうか考えながら、思考を活発に働かせるけれど何も出てこず…。
「…………あーもう…恥ずかしい…。」
見た目を取り繕って待ち合わせ場所に出向いた時点で既に気合い満々だったことはバレていると思う。でも、こんな風に雑誌見て真剣にデートに臨んでいたのを知られるのは嫌だった。