「春太、お風呂、次いいよー」

「はーい。」


お風呂上がり。

冷凍庫からアイスを取り出してソファに座り、堪能する。

そんな私を見ながら春太はクスクス笑い…。


「……色気のカケラもない姉ちゃんと、男前な大ちゃんがデートねぇ…。風呂上がったら幼さ全開な女なのに。」

「お…やるか…? やるのか…? かまちょな弟くん…?」


戦闘態勢オンにして、私はアイスそっちのけで春太のことを睨みつけた。


「べ〜つにぃ。2人とも楽しそうに笑ってたし…。デート成功したんだなって弟なりにホッとしたわ」

「…私、春太にデートなんて言ったっけ?」

「雰囲気でわかる。姉ちゃんって想いダダ漏れで周りにとってはわかりやすい。」

「………なんか嫌だな。それ。」


弟にまで恋路がバレてるのは正直恥ずかしい。


「お風呂、保温切れる前に入ってきなよ。」

「うん」


父親は幼い頃に他界した。母親は遅い時間まで働きながら、私と春太を一生懸命に育ててくれた。

学校に行けば葵ちゃん、智樹がいて。他にも仲の良い子と話して、遊んで、騒いで。

大ちゃんのご両親も、よくしてくれる。まるで本当の家族みたいに私と春太を可愛がってくれている。


「……幸せ者だな…」


一人でいるリビングで、好きな人の顔を思い出す。

デートで2人で話した会話。
食べた料理の味。
映画の内容。

大ちゃんの表情。


「ほんと……幸せだな…」


もう満足。良い日だった。


脱力しながら私はソファでゆったりと微睡む。


(あー…やばいかも。眠たくなってきた。)


夢の中でも、幸せでいれますように。


《ピロン》


なんて思いながら気が抜けていた私を一気に現実へと引き戻すように、ラインの通知音が鳴る。


のそのそと起き上がって通知の内容を確認すると、大ちゃんからの連絡で…。


『今からベランダ来れる?』


5度見した。
そして頭の中でポジティヴな私とネガティヴな私が葛藤する。


今日のデートで幻滅された…?
だからこれからフラれるんじゃない…?


と、ネガティヴな私は言う。

一方、ポジティブな私は…。


今日、良い感じだった!
きっと告白されるんだ!


などと、自分勝手な願望を唱える。




(………ただ単に何か大ちゃんの家に忘れ物したとか…かもしれない…。)




頭の中に『誘いを無視する』という選択肢は勿論ない私は、重たい足取りで自分の部屋へと進んだ。