カフェのご飯代は大ちゃんが支払った。
『入学祝い』かつ『去年短期バイトで稼いだお金の使い道にしようと思ってた』という位置付けで奢ってもらってしまった。
割り勘がいいのかな。
でも、好意を蔑(ないがし)ろにして無理やりお金を渡すのも違う気がするし…。
デートって難しい。
眉間を寄せて悩んでいる私に、大ちゃんは言う。
「この間、美鈴が観たいって言ってた映画観ようかと思ってたんだけど」
「あっ!あのスプラッター映画?」
「美鈴の好みってパンチ効いてるよな。」
「えっ…そうかな? 智樹が面白かったって言ってたから気になって…」
スプラッター映画が好き。普段、現実で観ないリアリティのない世界の中に、確かに存在する物語性とサスペンス感。
今話題の映画は最終的にはハッピーエンドを迎え、泣けると言われているものだ。
「……智樹…」
「友達。小学校から同じだし、好みとか趣味とか色々同じで仲良くて…。あ、でも小学生の時はいじめられてた!」
「ずんだ餅って呼んで揶揄ってた奴?」
「そうそう!大ちゃん覚えてたんだ」
私が大ちゃんを好きになるキッカケになった出来事。
そう思うと、智樹には感謝しないといけないような…。でもあの時は本気で傷ついてたしなぁ。複雑…。
「……そういえば、智樹に軽くネタバレされそうになって口喧嘩したんだよね。『楽しみ奪わないで』って怒ったら、『そんなピリピリすんなよ、ハゲるぞ』って。仲良いんだか悪いんだか…わからない時もあるけど…」
「………」
「なんだかんだ葵ちゃんと並ぶくらい心を許すしている人かも。」
自分の話ばかりしちゃうのは、会話を途切れさせたくないから。
内容のない、たわいない話を続けながら、私と大ちゃんは映画館の中に入る。
「大ちゃんは観たい映画ないの? また私に合わさせちゃうのは申し訳ない。」
「別に。俺は美鈴が喜んでくれればそれでいいよ。」
券売機の前に立ち、映画名と時刻、座席を選択した。